実に3年半振りの楽曲解説となってしまいました。
今回は、大人のお弟子さんがお二人第1番をレッスンされていますので、ショパンのバラードを取り上げてみました。全4曲の楽曲解説をここで詳しく行うことは不可能ですので、まずは概論から入りたいと思います。
まず、自分を含めてですが、ショパンのバラード、スケルツォとなると、恐らく大多数の方が自分でこの曲を弾く前に、CDやYouTubeで名前の知れたピアニストの演奏を耳にしてしまっていると思います。ここで気を付けなければならないことがあるのですが、皆さんは名前の知れたピアニストの演奏を「模範演奏」と捉えていると思うのですが、本当に「模範演奏」となり得るのはごく一部で、多くの演奏形態、演奏方法は、One of them の解釈に過ぎません。ですので、ショパンのバラードやスケルツォを弾くときに、皆さんまず例外なくテンポがグチャグチャになっています。これは、CD やYouTube の演奏からテンポ感をただ真似ているだけで、自分で楽譜から解釈していないので、曲がまとまらないのです。本当にショパンの楽譜を良く読んだら、そんな無茶苦茶なテンポ感にはならないはずです。そこに、まずアナリーゼの欠落があります。
私は、ショパンのバラード4曲いずれの場合も、必ずレッスンの際にお弟子さんに申し上げることがあります。それは、「あなたの弾くバラードに合わせて、すぐそばで踊っている人がいると思って弾いて下さい」ということです。
わかりやすい例で言うと、チャイコフスキーの「白鳥の湖」を2つのパターンで思い起こして下さい。1つは、オーケストラだけで演奏したもの。もう一つは、バレエをその場で踊っているライブ。オーケストラだけで演奏すると、必然的にテンポが速くなり、指揮者の好みや解釈に傾倒しがちです。一方、バレエを踊っている演奏はどうでしょう? とても遅く感じるはずです。当たり前のことですが、あまり速く演奏したら踊れないからです。
ショパンの作品は、というかどの作曲家でもそうですが、ほとんどの楽曲は2拍子、3拍子(6拍子、9拍子)、4拍子のどれかに属すると思います(この間弾いたプロコフィエフは7拍子でしたが、、、)。ショパンの場合、ワルツ、マズルカ、ポロネーズと、このバラードはすべて3拍子系(6拍子を含む)であり、これは舞曲のリズムです。ですから、まずは一定のリズムで弾くことが大前提です。楽譜をよ~く読んでみて下さい。ショパンは、ほとんどテンポを変えていないはずです。
それと、2つ目に私が気を付けている事は、余計なアゴーギク(テンポの変化)を一切入れないということです。まあ、これはどの作曲家でも同じですが、「何も足さない、何も引かない」これが大原則です。まずは、楽譜に書かれているとおり、作曲家が書いたとおり、ショパンが書いたとおりに弾かなければ、作曲した人に失礼です。これが実は、簡単そうでなかなか出来ないことなのです。
ショパンは「Tempo Rubato」と楽譜に直接書くことはしていないのでわかりにくいのですが、実際はRitardando からTempo Primo までをテンポ・ルバートと解釈してよいと思います。このテンポ・ルバートのところは多少のテンポの変化を入れてもおかしくならない構成になっていますので、速度の緩急を入れても大丈夫ですが、その代わりTempo Primo 以降は厳格にテンポを守って弾いた方が、最終的には曲の完成度が上がります。
今回は概論ですので、まずは基本的な考え方を述べましたが、実際のアナリーゼは音取りが終わった後から、ほとんど1音1音と言える位に細かく音色を考え、内声えぐりを行い、時にはポリフォニーをも意識しつつ1曲を仕上げて行きます。ペダリングも、ウナコルダ・ダンパーともに何段階にも踏み分けます。以前、「ピアノあれこれ」の中で申し上げていると思いますが、もうこの段階でアップライト・ピアノでは弾けないということになってしまいます(詳しくは、「ピアノあれこれ」をご覧下さい)。それと、アナリーゼには、当然楽譜の「行間を読む」作業も含まれていますので、ただ楽譜に書かれていることだけを弾けばよい、ということでは不完全です。これがアナリーゼの「醍醐味」であり、私がお弟子さんに教えて差し上げられる最大の「メリット」でもあるのです。