「ベートーベン」ネタが続きます。今回は誰でも知っている「エリーゼのために」です。実は、「楽曲解説-その1」でも「エリーゼのために」を取り上げていますので、7年振り2回目の登場ですが、今回は特にアウフタクトに注目しています!(その1もご参照ください。)
この曲は意外にもベートーベン作曲なのですが、もう一つ特筆すべき点は、「アウフタクト」で書かれているということです。アウフタクトはドイツ語で、小節の途中や最後の拍から曲が始まることを意味します。この曲も、(図1)のように8分の3拍子の小節の最後の拍から始まっていますが、残念なことにこの曲をアウフタクトを意識して弾く人は少なく、特に子供の発表会の定番にもなっているので、楽譜を見るより先に耳から入ってしまうため、アウフタクトの意識はすっかり飛んでしまっています。
(図1)
多くの子供は(大人も?)、いきなり曲を弾き始めるので、(図2)のように4拍子~6拍子~6拍子というように聞こえてしまいます。どういうことかと言うと、まず1小節目のアウフタクトを無視するので、1小節目と2小節目がくっ付いて4拍子となってしまい、最初の3拍子がずっこけたことにより、これに続く3拍子も全てずっこけて2小節ずつくっ付いて、6拍子~6拍子となってしまうのです。これは「アウフタクトで弾いていない演奏」を耳から先に入れてしまうので、もう頭にそれが焼き付いてしまい、いざ楽譜を見てもアウフタクトに弾くことができません。皆さん、作曲してしまっているのです。
(図2)
では、これは演奏する子供たちのせいでしょうか?
半分はそうかも知れませんが、もう半分はこの曲を教える先生方の責任もあると思います。先生方も、アウフタクトであることを生徒に十分意識させているでしょうか?それと同時に、どうすればアウフタクトに聞こえるようになるのでしょうか?
私は、アウフタクトの曲を生徒に弾かせるときは、必ず空白の1小節を加えてカウントして弾き始めるよう指導しています。この曲で言えば、(図1)の8分の3拍子の小節をもう1つ頭に加えて、1・2・3、1・2・ミレ、ミレミシレドというように弾き始めます。それにより、まずアウフタクトが意識でき、アウフタクトが意識できることで本来の8分の3拍子も意識できるようになります。
それともう1点、テンポも重要です。本来この曲は、子供向けにベートーベンが作曲した訳ではありませんから、皆さんの耳に焼き付いているゆっくりとしたテンポの曲でもありません。それに、もともと4分の3拍子ではなく8分の3拍子ですから、1小節を1拍にカウントして弾くべきです。それにより、アウフタクトの感覚と、8分の3拍子の感覚が戻って来るはずです。
さらに作曲されたのが1808年とされていますので、既にベートーベンがエラールのピアノを持っていたことから、ソナタ21番「ワルトシュタイン」の連打と同様の位置付けをすれば、自ずとテンポは決まって来ると思います。
ちょっとしたことですが、このちょっとしたことの積重ねが、読譜能力を上げることに対してとても重要なのです。まずはそこに書かれていることを正確に読み取り、さらに行間をも読み解くことも楽曲を理解するためには必要となります。