ロンドンをベースに活躍されているピアニスト、内田光子さんと私の共通点は、「象牙鍵盤愛好者」ということです。内田さんは、スタインウェイの象牙鍵盤付コンサート・グランドをお持ちで、かつてご自分のピアノをアメリカ公演のため空輸した際、ワシントン条約に引っかかるので象牙鍵盤を剥がしてまで持っていったという話は有名です。(鍵盤を剥がすのはとても難しいので、何回もできないと思います、、、)

では、何故「象牙鍵盤」なのか?というと、象牙はアクリル鍵盤のように汗をかいてもぬるぬるしません。指から出る汗を吸い取ってくれるのです。弾いている感触からすると、これは絶妙な感覚で指と接触します。一度弾いたら、それはもう離れられなくなってしまいます!

が、しかし、ここにも微妙な問題があります。「象牙」はワシントン条約で捕獲が禁止されていますから、新規に外国から「象牙」の輸入は出来ません。また、象牙鍵盤付のピアノを輸出することもできません。では、何故私が日本から「象牙鍵盤」のピアノを持って来れたのか? それは、このピアノがワシントン条約締結前に生産されたピアノだったからです。このG7という楽器はごく限られた年代に限られた台数しか生産されていないため、今となってはとても貴重なものとなりました。あの時代には、まだふんだんにピアノに使う質の良い「木」(スプルースなど)なども採れたのです。そのため、通産省から「輸出許可証」を取り、シンガポール政府から「輸入許可証」を取り、船便で運びました。完璧に合法です。

ところで、ヤマハは日本国内で新規販売されているコンサート・グランドへの「象牙鍵盤」を止めました。代わりに人口象牙を使用しています。コンサート・グランドに「象牙鍵盤」を使用しているのは、カワイだけになりました。

私は、死ぬまでこの象牙鍵盤のピアノを大事にするつもりです。そして、日々の生活の中で皆さんが感謝しながら牛、豚、鳥肉を食べているように、私も「象さん」に感謝しながらこのピアノを弾いています。