今回から順次、楽曲解説を載せることにしました。レッスンの限られた時間の中で楽曲解説をするにはとても無理があるのと、皆さんがよく弾かれる曲についてはその背景や練習のポイントについて、いつでも見られるように文字にしておこうと思った次第です。第1回は「エリーゼのために」です。
まずは、ピアノ初心者の登竜門となっているこの「エリーゼのために」ですが、作曲したのはベートーベンでこれまた意外です。というよりは、もともとベートーベンが子供のためにこの曲を書いたわけではなく「小品」の一つなのですが、「小品」というには大曲に用いられているモチーフが要所要所に見られ、そういう意味では決して「簡単な曲」ではありません。
- 曲全体を通して、この曲にはフォルテ(f)の表示がありません。ですので、決してモリモリ弾く曲ではなく、研ぎ澄まされた優しい音で、どちらかというと早く弾かなければなりません。しかも2ページ冒頭の32分音符を恐ろしく早く弾く必要があります。
- この曲は「アウフタクト」(弱起)といって、小節の初めから曲が始まっていません。こういう場合、スラーがかかっていてもスラーの部分全体がメロディーではないので、カウントの仕方に注意してください。アウフタクトはメロディの先頭ではなく、導入部に過ぎません。最終的には1小節を1拍子で取ります。
- 2ページ目最後の小説から始まる左手の連打は「321321」と運指が入っていますが、子供がこれを左手でまともに弾くととてもテンポに乗せられないばかりか、音が大きくなってしまいます。ですので子供の場合、この連打は同じ指で、しかも鍵盤が半分くらい上がって来たところで次の音を出すような奏法を用います。この曲は1808年ごろ作曲とされているので、「連打」「ハーフタッチ」が可能なエラールのピアノを使ったと考えられますが、最終ページの右手のアルペジオのところでe4の音が出ていることから、エラール以降のピアノを使用したと思われます。
スラーのかかった16分音符の演奏はベートーベンの真骨頂と言うべきで、これをきれいに弾けるかどうかでベートーベンのソナタは決まってしまいます。この曲はそういう意味でも、小品ながらとても中身の濃いものと言えるでしょう。とはいえ、みんなこの「エリーゼのために」が大好きで、一度は「弾きたい」と思う曲ですから、最初はゆっくり仕上げ、何年か経ったら「より早く」。こうやって繰り返し弾いて行くと、自分の上達も見えてきて面白くなってきます。