今回は上級編です。スクリャービンは一般的に「近代現代」の部類に入っていますが、ラフマニノフと同期ということもあり、ロマン派に入れてしまってもよいのでは?と考えます。私個人としては、プロコフィエフさえロマン派に入れたいくらいなのですが、これはちょっと行き過ぎでしょうか(笑)

さて、この曲の難しさ、面白さというのはこの曲が書かれた時代背景にもあると思います。第1次大戦前の「帝政ロシア」がやがて崩壊する前兆のようなものが感じられます。出だしからのちょっと病的というか、デカダンスというか、このfuzzy な感覚を表現するには、とても軽いハーフタッチとウナ・コルダの絶妙な組合せが必要となります。さらに輪をかけるように、第1主題がppp(ピアニッシシモ)の三声となって再び現れます。この内声をいかにきれいに恐ろしいほど軽く弾くか、でこの曲の完成度が決まります。

  1. 冒頭からの第1主題はバリエーションとなって3回出てきますが、内声や和音にかき消されやすいので、その主題をしっかり出すよう、そして独特の「うねり」をうまく表現してください。
  2. 21小節からの第2主題はとても美しいメロディーです。ここは、オクターブの倍音を工夫して響かせ、左手とのバランス調整を行ってください。ここは1音も外さないように!
  3. 30小節後半からの第1主題のバリエーションですが、勢いに任せて左手をガツンガツン入れてしまうと右手が聞こえなくなるので、注意してください。ここも「うねり」がポイントとなります。
  4. 39小節以降の第2主題のバリエーションは、2回目をp(ピアノ)で弾くと、コーダへ向かう道筋が付けやすくなります。
  5. そしてこの曲のピークは50小節ではなく、54小節です。ここにピークを持ってくるため、前後のクレシェンドとデクレシェンドを工夫しましょう。

 

私はこの曲の持つ「不気味さ」というか「毒」というかをマスターすると、プロコフィエフにとても入りやすくなるように思います。何をもって上級とするか?との問いに対し、「美」に潜む5%の「毒」を表現できるかどうか!であるとし、この曲でマスターした「毒」の出し方を他の曲の表現にも応用して欲しいと思います。

で、そのうち、機会をみてプロコフィエフの「戦争ソナタ」を取り上げてみましょう!

でも、次はバッハをやりたいと思います。