今回から2回に渡り、フランスものを取り上げます。かつて堀江真理子さんが、「フランスものは、フランスに住んでみないと弾けない!」と言っていましたが、私もその通りだと思います。フランスという国の空気、質感。あの国に生活してみて「フランス人って変だ!」ということに気付き(笑)、でも芸術に関しては物凄い感性を持っていることを知るのです。私は、ソニア・リキエルやアニエス・べーが好きですが、ファッションの面からもフランス人の美的感覚が突出していることがわかりますよね!

さて、ピアノのテクニックとして、フランスものを弾く際に欠かせないのが「ハーフタッチ」「レガート」「ハーフペダル」です。この3つが出来ないと、フランスものはほぼ全滅です。で、「ハーフタッチ」と「レガート」をマスターするには、完璧に「脱力」が出来ている必要があります。それともう一つ、フランスものには「超大作」というものが存在しません。何故なら、その音楽の原点がサロンから発生しているため、極めて室内楽的な「音響」であるからです。そのため、フランスものを演奏する際は、楽譜に書かれている強弱記号を1段階弱く捉えた方がよいと思います。例えば、f(フォルテ)と書かれていたら、mf(メゾフォルテ)くらいに弾いた方がいいでしょう。

フォーレはノクターンを13曲書いています。少なからずショパンの影響を受けている訳ですが、ことノクターンに関しては、ショパンのそれより「深さ」があります。「夜想曲」の「夜」がとても深いのです。

 

  1. さて、出だし初っ端「8分の18拍子」のsostenuto は単に「伸ばす音」ではなく、これから重苦しく「深い夜」に入って行くという暗示です。実際その後の展開で、「夜」はさほど重苦しくはなく、むしろ明るい方向性へと向かうのですが、この深い「闇」を不気味に表現することで、フォーレのノクターンが生きて来ます。ここでは、「ハーフタッチ」と、ウナコルダ、ダンパー両方の「ハーフペダル」を駆使し、こんな音がピアノで出せるんだ?という音に仕上げます。
  2. フォーレの音楽は淡々と流れます。このノクターンの中にも「舟歌」のような展開が出てきます。11小節から18小節はブチブチ切らずに、一息に弾いてしまいます。大きな息づかいで弾いて行かないと、ABA’-CDEDCE-A”C-コーダ と展開してゆく中で、いちいち音楽が切れてしまいます。それとフォーレの特徴として、メロディ・ラインが左手~右手、右手~左手と縦横無尽に流れて行きますので、その自然な流れを綺麗に作って行きましょう。
  3. 24小節の左手オクターブは、決してフォルティッシモの音と解釈しないでください。この音は、弦を長く振動させる音で、強く叩いてしまうと短い振動で終わってしまい、この音の深さが表現出来ません。また第1主題が何度も再現されますが、2回目以降も最初のような深い不気味さを出すとただの「ホラー」になってしまうので、2回目以降は調性も変わるのでさらっと弾きましょう。37~8小節はpppくらいの感覚で、でも音は抜けず深~く落ちて行きます。この音がうまく表現出来たら、フォーレを制覇したと言ってもいいでしょう!
  4. 展開部C(42小節~)が全部で3回出てきます。2回目、3回目とアルペジオ、スケールを伴って展開しますので、その変化をきちんと捉えて最後のコーダへと持って行くのがこの曲のストーリーです。

 

フォーレは79歳まで生きています。彼の生涯を推察するとき、私は彼がとても「幸せな人生」を送ったことがよ~くわかります。ピアノ曲に限らず、チェロ・ソナタや室内楽曲を見ても、どの曲の中にも「小さな幸せ」がたくさん盛り込まれています。しかもこの「小さな幸せ」がとても可愛らしかったり、愛おしかったりするのです。特にチェロの作品に触れると、チェロの吸い込まれるような美しい音の中から、フォーレの深い愛情を感じ取ることが出来ます。