さて、気が付くと「楽曲解説-その7」のプロコフィエフから作品番号が第7番でずっと続いて来ましたね?偶然ですが、ラッキー7はいくら続いてもいいですよね!

今回は、プーランクを取り上げます。15曲あるこの即興曲は、いずれも短編詩集のような感じで、プーランクのセンスの良さが感じられます。プーランクとフォーレの年齢差は38年ありますので、実際はかなり世代が違いますし、プーランク自身、フォーレの作品が嫌いだったようです。プーランクは今で言うシティボーイで、「フォーレの音楽は生理的に受け付けない」と言ったそうですが、半分は本当で、半分は嫉妬心だと思います(笑)。両者の作品ともピアノ曲としての演奏方法はフランスものとして共通していて、決して指を上げてモリモリ弾く音楽ではありません。プーランクの場合、特に歌曲の要素が強いので、どちらかというと「エディット・ピアフ」が歌う「パリの空の下」(Sous le ciel de Paris) なんかをイメージしていただくとわかりやすいと思います。ただ、一つだけ注意していただきたいのですが、日本人は特に第15番のようなメロディ・ラインが出てくると、老若男女間違いなく演歌・浪花節のように歌い上げてしまいます。これって、日本人の性(サガ)なんでしょうかね?シャンソンと演歌・浪花節は全く異なりますので、プーランクを弾く前に、まずそこをクリアしてきてください(笑)

 

第7番
第1小節から14小節までは一気に弾くのですが、左手の「ハーフタッチ」と「レガート」、ウナコルダの「ハーフペダル」を駆使します。9小節からはダンパーの「ハーフペダル」を入れるといいでしょう!15小節からは、ちょっとキラキラした音。21小節からが、最も「浪花節」になりやすい部分です。ここを思いっきりクレシェンドで「こぶし」を利かせたら最後、「演歌の花道」です(笑)。

フォーレのときにも述べましたが、フランスものを弾く場合は「強弱記号」を1段階弱く捉えてください。28小節もfffだからといって「ドカン」と叩くようなフォルテで弾いたら「大いなる勘違い」。ここは、「深い音」を出してくれ!という意味ですから、左手オクターブは弦振動の長い音です。

最後の第1主題再現部からコーダにかけては、「ハーフタッチ」で透き通るような綺麗な音を出してください。くれぐれも、「軽い音」と「ミスタッチで抜け気味の音」とは違いますので、ご注意ください。

 

第15番「エディット・ピアフを讃えて」
まず、シャンソンという音楽はフランス独自のものですから、これを踏まえた上で、さらに「エディット・ピアフ」を考える必要があります。日本人は特にこういう横文字ものに対して綺麗なイメージを持ち易いのですが、実際は数々の修羅場を乗り越えて行き着いた安堵感のようなものが必要で、それが故にこの15番は特に子供はもとより若年齢層の方には難しいと思います。やはり、「美を構成する毒」がないと表現出来ないのです、、、。
この曲の出だしは一瞬アウフタクトのように聞こえますが、実際は違います。アウフタクトになっているのは、6小節からです。ですので、この違いをまず明確にすること。それと、全体を通して8分の9拍子の1小節を1拍で取ってゆくことです。これをやるだけで、かなり変わるはずです。

この曲をエディット・ピアフのシャンソンだと思うと、装飾音符などがピアフの節回しにも聞こえてきます。決してこの装飾音符をゆっくり弾かず、早くさらっと自然に入れてください。18小節後半からの第1主題再現部を思いっきり大きな音で弾くと、見事な「演歌」に仕上がります。怖いもの見たさで、「バリバリのド演歌」に仕上がったこの15番を思いっきり直してみたいという衝動にも駆られます(笑)

 

プーランクはジャン・コクトーのサロンに出入りしていましたが、このサロンに関わる芸術家を見ると、ほとんどこの時代を制覇していた人たちの名前が出てきてひっくり返ります。また、フランスの芸術は本当に繊細なのですが、この繊細さに一番近いのが、実は日本の芸術だと私は常々考えています。日本の「詫び寂び」を理解できるのは、世界でフランス人だけだと思います。(シンガポールのホッカセンターで年中飯食ってると、段々こういう繊細さから遠ざかるような気がして笑えなくなります、、、。)
それともう一つ、私は日本の古典芸能「能」が好きなのですが、実はこの「能」から楽譜にある「休符」の捉え方を学びました。「休符」は「指を休める時間」ではなく、音のしない「音楽」なのです。さらに、この休符から効果的な「間の取り方」を探って行くのですが、実は楽譜の中で音の鳴っている部分より、休符の間の取り方の方が大事なのです。すべての音楽は、間の取り方一つで簡単に左右されてしまうのです。ドビュッシーにも見られますが、頻繁に変わる拍子や急激な緩急の変化をどのように表現するか。やはり、ヒントが「能」に隠されていると思います。

 

さて、「間」という言葉が出てきた繋がりで、次回は間の取り方がこれまた難しいベートーベンのソナタを取り上げましょうか!